新たな段階を迎える九州の訪日外国人観光
国内有数のインバウンド拠点へ space3
九州における今後の訪日外国人観光の拡大方策として、「アジアの安近短旅行の受入拠点化」、「九州の旅行商品の高付加価値化」の2つが考えられる。1つは量的な拡大を図ること、もう1つは質的な向上を図ることである。

■九州を東アジア国際クルーズの拠点に
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九州は、訪日外国人の船舶による大量集客が可能なことが特徴の1つである。そして、近年増加している中国発のクルーズ船は、1週間以内の旅程が多く、国内では距離的にみて九州に優位性がある。中国の経済発展が沿岸部から内陸部へと拡大していけば、当面クルーズ需要は続くと見込まれる。
停泊時間が限られるクルーズ船の効果を引き出すためには、まず、できるだけ多くのクルーズ客を下船させ、できるだけ多くの消費を呼び込む施策が求められる。CIQの迅速化(入国審査ブースの拡大、補助要員の増員、入国手続きの簡素化など)とともに、都市の魅力アップや購買意欲を高めるための工夫(店舗情報や商品知識の提供、円滑な決済システムなど)が求められる。
また、九州をクルーズ船の寄港地として定着させるためには、九州各県の港湾間で誘致競争をするより、「九州」としての寄港をPRすべきである。そして、クルーズ船を安定的に寄港させるためには、日本人乗船客の増加も必要であろう。クルーズ船社は乗客の存在するところに配船する可能性が高いからである。日本人のクルーズに対するイメージは、「高価格」「長期旅行」といったものであるため、日本のクルーズ市場は所得水準や旅行市場の成熟度に対し極端に小さい。このイメージを払拭することが必要である。
クルーズ船と新幹線、高速バス、航空機を組み合わせ、陸路で移動した後、乗船するオーバーランド・ツアーや、空路で移動した後、乗船するフライ・アンド・クルーズといった多様な旅行商品を提案し、九州をクルーズ船の母港化することも考えられる。特に、本年3月12日の九州新幹線開業を期に九州各地の観光地の再評価とPRが図られており、これらを外国人客向けの観光資源、旅行パッケージとして活用することも検討すべきであろう。


■中国人団体旅行への対応力を強化
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中国人へのビザの発給要件は徐々に緩和されており、今後、個人観光客も増えることが考えられる。しかし、団体観光の比率は2009年に5割を上回り、増加傾向にある(図表4)。このため中国からの観光客は、当面、団体観光が中心となることが見込まれる。
現在、中国人団体客は、東京〜大阪間のいわゆるゴールデンルートに集中する傾向にあるが、次第に地方へと分散する動きも広がるであろう。その時、九州は受入れの準備を進めておく必要がある。

訪日中国人に対する団体観光査証発給数の推移
団体観光客の受入れは、宿泊施設にとって稼働率を高めるメリットがあるものの、ともすれば旅行社からの値下げ圧力から薄利多売の低価格競争に陥る可能性がある。そのため、低価格な旅行商品の企画でも利益が出せる構造をつくる必要がある。九州・日本の旅行社や宿泊施設、観光施設が連携することで、九州の人件費や食材の安さに加え、価格に見合ったサービスや食の質の高さを生かすことができると考えられる。


■様々な産業との連携強化
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日本政府観光局の調査によると、訪日外国人の観光目的として「日本の食事」が上位に来ている。九州は豊かな食材に恵まれ、各地に個性ある郷土料理や土産品があり、農林水産業や食品産業と訪日外国人観光との連関が実を結ぶ可能性が高いと考えられる。
また、アジアでは80年代生まれの新しい世代が海外旅行にも台頭しており、ファッションや漫画、ショービジネス、スポーツに興味をもつ。例えば、観光産業とファッション産業、美容産業などとの融合がある。中国人向けの観光ツアーを組成する企業のなかには、福岡の美容院やネイルサロンなどをめぐるツアーを企画する事例もある。
「Cool Kyushu」を具体化して、九州は新しい世代の誘客も必要で、様々な産業との連携が、九州旅行の高付加価値化に繋がる。


■医療・健康ツーリズムの推進
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昨今、高付加価値な旅行として、注目されているのが医療ツーリズムである。自国にはない医療機器での治療や検診と、オプションとしての観光の双方を目的に、海外を訪れる医療ツーリズムは、政府が掲げる新成長戦略にも「国際医療交流」として掲げられている。医療ツーリズム促進のために、政府では海外から病気の治療や健康診断を目的する外国人に対して、最長6カ月の滞在を認める「医療滞在査証(ビザ)」を新設し、2011年1月から発給を始めている。日本政策投資銀行によると、日本に医療目的で渡航するツーリストは2020年には年間43万人、観光を含めた市場規模は約5,500億円、経済波及効果は2,800億円が期待できると試算している。
九州の強みとなるのは、指宿市や鳥栖市のガン粒子線施設の稼働であろう。ガン粒子線は、病巣に絞って照射する最先端の放射線治療法である。指宿市では陽子線照射、鳥栖市では重粒子線照射という方式の違いはあるものの、1日の治療時間は短時間で、数日から数カ月間の治療が必要なことから、治療以外の時間に温泉などの療養やショッピング、スポーツなどのレジャーと組み合わせることが可能である。ガン粒子線治療施設は、現在建設中のものも含め国内には10カ所あるが、アジア諸国には導入事例がない。今後、韓国や中国で計画があると言われており、他国で導入される前に九州で旅行商品化する必要がある。


■おわりに
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アジア圏の旅行客の拡大により、アジアインバウンド時代ともいうべき新しい時代を迎えようとしている。九州にとってこの時代は、九州がアジアに近いという強みを生かすことができ、大量の人が日常的に、気軽に九州とアジアを往来する時代である。低価格で旅行できるという強みは、訪日外国人が東京〜大阪のゴールデンルートに集中している構造からの脱却を図る好機でもある。
今後、隣国間での観光客獲得競争が激化することが考えられるが、九州は満足度を高め、九州ファン・リピーターを増やすことで旅行消費額、滞在時間を伸ばすと同時に、多様な企業の参入によって産業連関の度合いを高めれば、インバウンドは地域産業の大きな柱に成長していくであろう。

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