九州経済連合会松尾会長に聞く「特区指定と財界の役割
グリーンアジア国際戦略総合特区の指定と今後の展望 九州経済連合会 松尾会長に聞く「特区指定と財界の役割」Space3
「九州発展の起爆剤に」
■「九州発展の起爆剤に」
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1月20日、東京都・大手町にある経団連会館。安住淳財務相は米倉弘昌会長をはじめとする経団連幹部と懇談した。社会保障と税の一体改革の柱となる消費税増税に向け、財界の意見を聞くためだ。米倉会長の発言は増税の是非にとどまらず、日本経済の再生策など多岐に渡った。
安住財務相は同席した全国7経済連合会の会長にも発言を促した。口火を切ったのは、九州経済連合会の松尾新吾会長だった。
「昨年末、福岡県と北九州、福岡両市が国の指定を受けたグリーンアジア国際戦略総合特区に関して3つのことをお願いしたい」。経団連側はこの会合で、法人税を早期にアジア諸国並みに引き下げるよう求めており、アジア関連の要望として「特区」に対する財務省の特段の配慮を求めたのだ。松尾会長は特に、地理的にアジアに近い九州の発展が日本経済のけん引役となり得る点を強調した。
「特区指定を受けたのは福岡県と両政令市であり、直接アジアとのビジネス交流を進めるのは3地域が中心となるが、この3地域の発展が九州の発展の起爆剤となり、ひいては九州がアジアと日本全体の交流拠点となる。国が指定した全国7つの国際戦略総合特区の中で『アジア』を前面に打ち出したのは福岡だけであり、1ローカルの問題と考えないでほしい」。
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■全国に先駆けた支援措置
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安住財務相はその場で明確な回答は避けたが、松尾会長を通して「グリーンアジア」が脳裏に刻まれたのは確かだった。8日後の1月28日、一体改革の説明のための全国行脚で福岡市を訪れた安住財務相は、会場で自ら松尾会長に歩み寄り、「先日の要請はきちんと受け止めています」と話し掛けた。
目に見える形での「回答」も早かった。東邦チタニウム(神奈川県)は4月13日、北九州市の八幡工場で計画する大型溶解炉増設資金に充てる46億円の長期借入が、総合特区法に基づく利子補給制度の対象に認められたと発表した。特区内で設備投資などを行う企業に借入金の利子の一部を国が補給する支援措置で、全国7特区の中で、この適用を受ける全国初のケースとなった。

生産プロセスを効率化する産業用口ボット
さらに5月8日、福岡県は安川電機(北九州市)を総合特区法の税制優遇措置を活用して事業を実施する「指定法人」に指定した。こちらも全国7特区の中で第1号指定だ。安川電機は本年度から2カ年で産業用ロボットや高効率モータ、電気自動車(EV)用モータなどの研究開発・生産充実に向け、40億円超の設備投資を計画しているが、税制優遇措置により設備の取得価額の50%(建物等25%)を特別償却するか、15%(同8%)の税額控除を受けるか、いずれかを選択することができる。財務省の強力な後押しがあればこその指定であり、松尾会長は「政府が早速、特区に対し特段の配慮を示してくれたことをうれしく評価している」と語る。
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■旧来型構図からの脱却
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「展開次第で商工業が飛躍的に発展する可能性がある」。福岡商工会議所の末吉紀雄会頭もこう指摘するように、経済団体や企業の特区への期待は大きい。
ただ、特区の成否は、財務省など政府が福岡側の規制緩和・税制優遇の要求にどこまで応え、重点的な財政支援を行うかなど「中央」の意向に左右されるのも事実だ。「飛躍的な発展」につなげるためには、「陳情」「誘致」を中心とした旧来型の構図から、いかに脱却するかにかかっている。つまり、政府に「1ローカルの問題ではない」という点を強く認識させると同時に、「環境」と「アジア」を軸にした地域づくりの起爆剤とする機運を醸成できるかどうかが鍵を握る。環境産業を軸に産業全体の活性化へ、福岡県と両政令市を拠点にオール九州へ。アジアへのビジネス展開を進める上で、産別の壁や県の境がない九経連が果たすべき役割は極めて大きいと言えるだろう。
さらに、松尾会長は「九州には福証があり、資金調達も含め何もかも自己完結できる」と、福岡証券取引所の役割にも言及する。東京、大阪両証券取引所の統合で世界を相手にする「日本取引所グループ」が誕生する予定であるが、アジア志向が強まれば強まるほど福証の存在が貴重になるとの指摘だ。地方で証券取引所が残っているのは、福岡と札幌のみであり、松尾会長は「九州に根差した福証には、ぜひアジア株の上場を実現してほしい」と期待する。
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■「九州はおもしろい」
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「実は、九州経済連合会の名称を九州経済産業連合会に変えたいと思っていたんだけどね」。インタビューの途中、松尾会長は唐突にこう話題を変え、「みんな反対するから実現は難しそうだけどね」と笑いながら付け加えた。
松尾会長の念頭にはあるのは「農林水産業」であり、「産業」の文字を加えることによって農業と商工業を結び付け、九州をアジア向けの「フードアイランド」として発展させたいとの狙いがある。
3月19日、九経連は九州経済産業局や九州農政局などと連携して「九州農業成長産業化連携協議会」を設立した。アジア市場を視野に「オール九州」で農産物や加工食品の輸出拡大に本格的に乗り出すのが目的だ。当面、香港への輸出拡大を進めるほか、農業と商工業による広域ビジネスマッチングなどに力を注ぐ予定だ。
九経連はさらに、昨年11月から今年4月にかけ香港、台湾の経済団体と相次いで経済交流促進に関する覚書(MOU)を締結。7月2日には地場企業の海外進出を支援するための新組織「国際ビジネス推進室(IBC)」を発足させ、農産物の輸出拡大をはじめとするアジアビジネスのレールを確実に敷き始めている。
「官民一体で九州の農業を活性化するのが狙いだが、『九州はおもしろい』といろんな人に関心を持ってもらう突破口になれば」。松尾会長とともに協議会設立で強力なリーダーシップを発揮し、MOU締結にも一役買った瀧本徹・前九州経済産業局長(現観光庁観光地域振興部長)もこう語る。
「環境」と「アジア」、そして「食」。まさに「九州はおもしろい」を実現するための舞台は整いつつある。福証や九経連をはじめ財界が果たすべき役割も増している。

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国際戦略総合特地区の指定法人第1号

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