九州エリアの躍進は続く
福証銘柄の魅力

東日本大震災とそれに続く福島第一原発事故によって、東京において業務を続けられるかが不安な時期があった。
知り合いのベンチャー企業経営者の何人かは、オフィスを九州に移転させた。
九州にはあまり所縁も無い私は、行動するまでには至らなかったのだが、
今年に入って、社員の一人が家族の都合で宮崎市に転居することになった。
優秀な社員であるため転居先でも業務を継続して貰うことにし、
拠点分散に対応するためにIP電話に切り替え、毎日東京-宮崎間で連絡を取っている。
その後に、この企画のお話を頂戴したのだが、これから九州に様々なご縁が広がってゆく兆候なのかもしれない。

全国平均を上回る鉱工業生産指数の伸び

   九州は総人口では全国の約10%であるものの、農業産出額、海面漁業生産額、林業産出額といった農林水産業ではいずれも2割近いシェアを誇る。第一次産業で強みを発揮するだけでなく、鉱工業生産でも人口比と同じ1割の全国シェアを持っている。
   さて、あらためて九州の鉱工業生産に目を向けると、興味深いことに気が付く。鉱工業生産指数は、2011年頃から趨勢的に全国平均を上回って推移しているのだ。2011年から2012年は、東日本大震災によって東北・北関東地方の生産が落ち込んだこと、その代替として九州地域での生産拡大が寄与したものと思われる。しかし、その後も全国平均を上回り続けている。特に2015年に入ってからが顕著である。生産指数(3ヵ月移動平均)では、1月103.2(全国平均99.4)、2月104.0(99.7)、3月104.9(99.7)、4月104.2(98.7)と全国平均を大きく上回っている。全国平均に比べて、生産指数ウエイトが高い産業は、1)輸送用機械工業、2)電子部品・デバイス工業、3)汎用・生産用・業務用機械工業、4)食料品工業、5)化学・石油石炭製品工業、と続く。平成26年度生産指数(付加価値額ウエイト)においては、汎用・生産用・業務用機械工業が前期比7.8%増、電子部品・デバイス工業が12.1%増と大きく伸びた。こうした産業は輸出比率が高いことから、円安効果を享受していると推測される。
   また、大型小売店の販売動向(百貨店スーパーの販売額合計)においては2014年9月から2015年4月まで既存店の前年同月比が全国を上回って推移している。中国や韓国に近いことや、豊富な観光資源があることから、訪日観光客(インバウンド)需要の影響が強く表れている模様である。インバウンド関連の消費効果は全体の5%程度を占めていると推測されている。外国人観光客は現状では関東地方と近畿地方への集中度が高いが、宿泊施設や交通インフラなどの整備進捗や訪日リピーターの増加から、九州地域での大きな増加も今後は期待できるであろう。

鉱工業生産指数推移 大型小売店販売動向推移
北部九州自動車アジア先進拠点構想

生産拠点としての優位性が高い

   趨勢的な円安トレンドは中長期では生産の国内回帰の動きを促進する可能性が指摘できる。その場合において、生産拠点の立地に関し、九州は他の国内地域に比べて優位なポジションを持っていると思われる。その理由として、1)地震が少ない、2)東北や北陸など日本海側と違って降雪が無い、3)韓国・中国沿岸部などアジア地域に近く、物流面でのメリットが大きい、4)土地の確保が容易で比較的安価、5)工業系の大学が多い、6)地元志向が強く人材の定着率が高い、などが挙げられる。有効求人倍率においても4月時点で0.98倍と全国平均の1.17倍を下回っている。有効求人倍率が低いのは労働者の定着率が高いことも一因だが、労働力確保においても優位性が高いと推察される。

交通インフラの基盤整備も進む

   インフラ面では、2011年に九州新幹線(鹿児島ルート)が全線開通した他、2022年春開業予定で西九州ルート(長崎新幹線)が着工される。福岡空港では2025年完成を目指して第二滑走路増設計画が進められている。福岡市営地下鉄も空港線・七隈線の延伸が計画されている。高速道路は、東九州自動車道の大分‐宮崎間が本年3月に全線開通し、博多から鹿児島までの東側ルートが完成した。九州横断自動車道延岡線も2014年3月に一部地域を除いて嘉島‐小池高山間が開通した。他にも中九州横断道路など高規格道路の整備が進んでおり、自動車や半導体などの産業集積地と基幹都市、主要観光地等を有機的に結ぶネットワークの構築が進みつつある。九州は交通が不便であるという概念はすっかり過去のものになりつつあると言えよう。
   こうしたインフラ面の整備・強化を背景に、各自治体で都市開発や産業振興策が進められている。一例として、福岡県ならびに自動車メーカー各社を中心に「北部九州自動車産業アジア先進拠点プロジェクト」が進められており、電子・電装系企業の集積促進、ITS等新たな交通システムの実証、水素ステーションの整備促進や充電スタンドの拡充など次世代自動車の普及拠点の形成などの取組みが行われている。

福証単独上場銘柄は割安な銘柄が多い

 弊社では、早くから非財務分析手法の試行的採用や、ROEを基準とした銘柄選択の提唱を行ってきた。そうした試みの一つとして、株式市場のインプライド・リスク・プレミアム※に着目し、企業の成長性、収益性(ROE)、財務健全性を包含した独自の株価バリュエーションモデルを採用している。

  そこで、福証単独上場銘柄31社の内、銀行とリースを除く25社についてバリュエーションを行ってみると、17社が妥当と考えられる理論株価よりも割安な水準にある。そのうちの10社が妥当な株価水準を3割以上下回っている。7割以上の会社が純資産価値であるPBR1倍を下回っており、こうした現象が生じている 理由は、株式流動性の不足が挙げられる。それは主に株主数の絶対数や株主構成に起因していると推察できる。

※ インプライド・リスク・プレミアム:
  現在の株価が正しいという前提のもとに算出したリスク・プレミアムのこと。(リスク・プレミアム= リスクのある資産収益率-無リスク資産収益率)

株主数を増やすことで株式流動性の向上から
バリュエーションの上昇が期待できる

 2012年3月に一橋大学商学部・大学院商学科の円谷昭一准教授と共同で株主数と株価バリュエーション※の関係について調査したことがある。上場企業2987社を対象に「企業規模」と「株主数」の2軸によってPBR水準の違いを分析した。2987社を企業規模で4分割し、分割した各グループを株主数で4分割し、合計16セルのPBRの平均値を算出した。企業規模については、売上高、純資産、総資産と複数の角度から分析を行った。分析の結果、1)企業規模を調整した各グループの比較では、株主数の多い企業群の方がPBRが高い、2)規模の小さい企業群の方が株主数のPBR(の開き)に与える影響が大きい、という結果が得られた。

※ バリュエーション:
  ここでは、PBR(株価純資産倍率)をベースに、現在の株価と本来の企業価値とを比較する株価指数(株価バリュエーション)のことを意味する。

  話を福証単独上場会社に戻すと、31社(銀行・リースを含む)の内、株主数が1000人未満の企業が23社あり、その内の8社が500人未満である。特定株主比率も20社が60%超(うち12社は70%超)である。株主数と株価バリュエーションで株主数と規模を16セルに区分してPBRを示したが、福証単場会企業がどのセルにマッピングされるかを示したのが「福証単場会銘柄の状況」である。チャートでは「1-1」、「1-2」、「1-3」の位置に多くの単場会企業が位置している。つまり理論上では、株主数を増加させることで適正評価を得やすくなると言える。福岡証券取引所の上場基準において、本則市場は株主300人以上、Q-Board市場は200人以上であることが株主数が少ない背景にあると思われるが、株主数はバリュエーション(=株式価値)に色濃く反映されるだけに、それを増加させる施策をとることによって流動性が向上し、適正な株価として評価されやすくなる。

  別の観点で見れば、福証単独上場企業(本則市場)は長寿企業が多い。設立から現在に至る社歴は平均で約60年である。戦前・戦中に設立された企業も6社含まれる。オールドエコノミーに所属する企業が多いという見方もあるかもしれない。しかし、長寿であるということは、取引先、人材、設備・インフラ、ビジネスモデルなど経営基盤が安定しており、景気変動による浮沈はあっても安定してキャッシュフローを生み出せる体質にあることを意味している。株価バリュエーション面で割安なことと合わせて考えれば、長期投資を志向する投資家に向いていると言える。

株主数と株価バリュエーション 福証単場会銘柄の状況

   他方で、Qボード市場は主に90年代に設立された比較的新しい企業群となっている。福岡市がグローバル創業・雇用創出特区として2014年5月に国家戦略特区の認定を受け、法人税、外国人創業人材の受入、エンジェル税制など規制緩和、制度改革ならびにサポート体制やインフラ整備などが進められており、福岡を基点とした起業が活発化している延長として、新規上場の活性化が期待できる。

インターネット環境の進化から海外にダイレクトにアクセス

   インターネットの大容量・高速化、SNSの普及やクラウド型サービスの促進、ネット上の情報の充実、費用の低廉化など、ネット・通信環境は日々進化を遂げている。電話の3分間の通話料金を例に挙げれば、福岡‐東京は、1989年(平成元年)は330円であった。それが2015年現在、NTTが80円に対してIP電話による固定電話間通話は全国一律8円であり、国際電話料金も国によっては国内並みの水準になっている(米国15円、中国12円)。つまり、本拠地を東京に構えなくても、情報収集と共同作業を行える環境は、その気になれば何処にでも作れるのだ。福岡空港の国際線は韓国・中国を中心にアジアの主要都市に繋がっている。ソウル、釜山、済州、北京、大連、上海、広州、武漢、成都、台北、高雄、香港、マニラ、バンコク、ハノイ、ホーチミン、シンガポール、等々。海外へのアクセスも大都市圏を経由して繋がるのではなく、地方都市からのダイレクトアクセスに変わりつつある。

金融機能の強化が求められる中で証券取引所が存在する意義は大きい

   米国では機関投資家は必ずしもニューヨークやボストンなど東海岸だけに集中しているのではなく、西海岸や中南部にも広く分布している。これは米国企業の本社所在地が分散していることも背景にあるが、長期運用においては市場のノイズを排除することのほうが重要であることを実践している。
   一方、日本では運用会社の殆どは東京に集中しているが、独立系直販投信会社のいくつかは、東京以外に本社を置くところも出てきている。独立系や直販投信といった運用会社は長期運用を掲げるところが多く、運用会社の質の変化から東京一極集中とは別のトレンドが今後生じてくる可能性も考えられる。

   現在、福岡市はグローバル創業・雇用創出を掲げて「国家戦略特区」に指定されており、これを機会に是非、国内外のベンチャーキャピタル・投資信託など機関投資家の九州への誘致も積極的に検討を進めていただきたいと思う。金融・投資という経済の血脈の強化が進めば、起業が促進され、ヒト・モノ・カネの集積が加速すると考えられる。
   そういう意味では、九州には地元の取引所として福岡証券取引所が存在している意義は大きく、地域発展の可能性を確保していると言えるだろう。

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九州·山口地域の明治日本の産業革命遺産が世界遺産登録

 さて、この原稿を書いている7月5日、世界遺産として明治日本の産業革命遺産に23箇所が認定されたというニュースが入ってきた。23箇所の内、16箇所が九州である。長崎市(8箇所)、鹿児島市(3箇所)、福岡県八幡エリア(2箇所)、三池エリア(1箇所)、佐賀市(1箇所)、熊本県宇城市(1箇所)、である。さらに北九州に近い山口県萩市(5箇所)を加えると23箇所中21箇所が九州·山口エリアとなる。
 元々、九州は阿蘇、霧島、桜島、屋久島(世界自然遺産)、長崎、島原、湯布院、別府、等々、観光資源が非常に豊富であるが、新たな世界遺産が加わることによって国内外からの観光集客力が高まることが容易に想像される。その中でも福岡は、近畿圏より西の、中国·四国地方及び九州の中心に位置し、東アジアを結ぶハブ都市として発展が見込まれる。九州全体としても農業、工業、観光を三本柱とし、アジアの成長も取り込みつつ、全国平均を上回る成長の持続が期待できる。

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藤根 靖晃氏
株式会社ティー·アイ·ダヴリュ
ストラテジー·アーキテクト兼CEO

東京理科大学総合科学技術経営研究科修了。日興ソロモン·スミス·バーニー証券(現Citi Group Global Market Japan)を経て、2000年に株式会社ティー·アイ·ダヴリュを設立(代表取締役、現任)。53歳。
化学業界を皮切りに総合商社、情報サービス、アパレル·小売など幅広い業種を経験。中小型株·コンピュータ·ソフトウエアのアナリストとして高い評価を得て、日経金融新聞アナリスト人気ランキングでは常時3~5位(1996~2000年)、2000年の米Institutional Investor誌ランキングにおいて第1位(Computer Software Entertainment部門)を獲得。
近年は、インプライドERPの分析、株主構造とバリュエーションの関係など株価決定要因の分析と、独自のバリュエーションモデルの実証に注力している。
株式会社ティー·アイ·ダヴリュは、(公社)日本証券アナリスト協会の法人会員。中立·独立を掲げ、主に個人投資家を対象とした企業分析レポートを、オンライン証券などを通じて発信している。

株式会社ティー·アイ·ダヴリュ( 公益社団法人日本証券アナリスト協会法人会員)
http://www.tiw.jp TEL:03-3546-8721(代表)