世界経済は、緩やかではあるが、持ち直し基調にある。IMF(国際通貨基金)の見通しによれば、世界全体の実質経済成長率は、リーマンショックによる2009年の落ち込み後は、プラス圏ながらも、2016年に伸びが最も低下していた(図1)。そこから2017年以降は、成長率が持ち直してくると見込まれている。

2016年においては、資源価格の下落もあって、ブラジルやロシアなど主要な資源国経済が低迷した。加えて、欧州諸国も景気停滞を脱することができなかった。米国は内需中心に堅調な経済成長を持続してはいたが、他国の景気低迷が輸出を抑制した。ところが2017年は、中国経済も成長率の底固さを示し、ブラジルやロシア、欧州の景気も、回復色を示しつつある。

特に2017年以降、回復色が強まると期待されるのは、設備投資だ。世界全体の投資(設備投資、住宅投資、公共投資の合計)の前年比増減率をみると(図2)、2016年は、世界の経済成長率がプラスであったにもかかわらず、減少をみせた。これは、設備投資の増減が、経営判断によるためであろう。すなわち、2016年は、年初から世界の株価が下落色を強め、資源価格も大きく
下げた。また6月には英国がEU(欧州連合)離脱を国民投票で決定し、欧州経済に対する疑念が広がった。こうした不透明な情勢のなかで、企業経営者が設備投資を先送りしたと推察される。しかし結果的には、世界経済は懸念したほど悪化しなかったため、2017年以降は、設備投資が増勢を強めると期待できるだろう。

世界有数の経済規模であり、九州経済に与える影響も大きい米国と中国について、詳しくみてみよう。

米国では、雇用者数が、採用難で伸び悩みながらも、増勢にあり、賃金も増加している。これが家計部門を支え、小売売上高は順調に拡大している(図3)。住宅着工は、短期的にぶれが大きいが、長期的には増加トレンドにある。

製造業については、海外経済の低迷で輸出向け生産が抑制され、鉱工業生産は2014年11月から2016年3月まで下降基調をたどった。しかしその後は、世界景気の回復に沿って、増加に転じている.

ただ、自動車販売は、賃金増にもかかわらず、二つの山を形成したのち、減少に転じている。これは、ディーラーの販売促進活動(値引きなど)や金融機関のサブプライム自動車ローンの貸付などにより、需要を先食いしたためだと推察される。しばらくは、自動車販売台数の反動減が続きうるが、家計所得が長期的に増勢にあるため、いずれ自動車販売は増加基調に転じよう。また、金融機関が、かつての住宅向けサブプライムローン問題の二の舞を避けようと、既に貸付審査を厳しくしている。したがって、自動車ローンが、これから大きく膨張してその後混乱を引き起こすような事態には、陥りにくいと考える。

リスクを挙げるとすれば、経済政策に対する失望だろう。米国における予算策定権限は議会だけにあるが、議会共和党は財政赤字の膨張に対して、極めて警戒的だ。このため、減税もインフラ投資も、大統領案より規模が小さくなる可能性が高い。これが、株式市場で投資家の失望を招いたり、家計や企業に警戒的な空気を広げたりする展開が懸念される。ただし、もともと経済政策がなくとも、米国経済は自立的に回復軌道をたどっている。長期的には、いたずらな懸念は不要だろう。

中国は、かつての低賃金を武器にした輸出主導の経済成長が、曲がり角に来ている。このため、従来型の輸出産業(鉄鋼、セメント、石油化学、家電、衣料品など)から、高付加価値産業(IT、ソフトウエア、医療機器など)や内需産業(小売、サービス、金融など)への構造転換に迫られている。

こうした構造改革の半ばにおける景気失速を避けるため、中国はマクロ的(全体的)には、景気刺激的な政策を取っている。具体的には緩和気味の金融政策や公共事業の拡大だ。しかしそうした景気刺激的な政策は、同時に金融商品や不動産等への投機を拡大している。そうした事態が嵩めば、バブルの膨張と破裂を招きかねないため、こうした分野については、ミクロ的に(個別に)不動産向け融資を抑制するよう銀行を指導するなど、ブレーキを踏んでいる。

問題は、こうしたマクロとミクロが逆方向の「二正面作戦」が奏功するかであるが、実体経済は穏やかな拡大を続けているようだ。その点を、豪州から中国向けの輸出額でみてみよう(4)。豪州にとって、中国は鉄鉱石、銅鉱石、石炭など鉱物資源の「お得意さま」で、総輸出額の3割強は中国向けだ。この中国向け輸出額は、2016年1月まで減少傾向にあり、中国経済がその頃までは悪化していたと推察される。ところがそれ以降、輸出額が増勢に転じている。中国経済が、鉄鋼や銅などの増産を伴いながら、回復基調にあると言える。

そうした、世界経済の回復基調のなかで、日本経済の状況はどうだろうか。

海外経済の改善により、輸出は増勢にある。日本からの輸出金額と数量の伸びを比較すると(図5)、2016年前半は、円高により外貨建て輸出の円換算額が目減りし、輸出金額は大きく落ち込んで行った。しかし輸出数量の前年比は、2016年1月を底に、回復に向かい始めている。すなわち、円相場にかかわらず、日本製品に対する海外需要が増加し始めていたわけだ。この輸出数量増により、今後は大幅な円高にさえならなければ、輸出企業の採算が改善していくだろう。

一方内需は、最大の需要項目である個人消費について、現時点では回復力が今一つだ。雇用情勢は、失業率が一時は3%を下回るなど、人手不足状況にある。ここで現金給与の伸びをみると(図6)、パートの時給は増加傾向だが、一人あたりのパートの給与は減少気味だ。ただしこれは、年間所得による税控除や社会保険料負担の「壁」を意識して、勤務時間を自主的に減らしているのだろう。ところが一般労働者(フルタイム)については、給与が伸び悩み、消費者心理に影を落としている。働き方改革により、残業等が減少し時間外所得が減少しているが、それを挽回するには所定内給与の増加が不十分であるためだろう。

このように現在は、まだ企業経営が給与引き上げに慎重であるが、景気回復が一段と進展すれば、次第に賃金増に踏み切る企業が増えると見込んでいる。

世界経済並びに日本経済の回復は、もちろん九州経済にも恩恵をもたらそう。

まず産業別にみると、製造業においては、九州は総生産のうち、輸送機械(24.5%)、電子部品・デバイス(12.3%)、生産用機械等(11.2%)の比重が大きく、全国平均(それぞれ、19.1%、8.2%、12.7%)を上回るか、ほぼ同水準にある(鉱工業生産ベース)。

輸送機械では自動車関連が主力だが、自動車販売は、米国では足元では減少気味で推移している。しかしこれは、前述のように需要先食いの反動であると推察され、長期的に不安視する必要は少ないだろう。またアジア諸国の自動車需要は、引き続き旺盛だ。半導体等の電子部品・デバイスは、世界経済の回復に加え、IoT(モノのインターネット)の進展などにより、需要拡大が期待される。特に中国では、従来型の重厚長大産業から、付加価値の高いIT産業等への、構造転換が迫られている。この潮流も、電子部品・デバイスの需要を押し上げよう。2016年に抑制された世界の設備投資が、2017年以降回復に転じていることは、既に解説した。こうした動きは、九州における生産用機械産業を支えよう。

国別には、世界経済が全般に持ち直すなか、米国、中国といった二大経済大国について、景気実態が着実に回復していると指摘した。単純に、九州からの仕向け先国別の輸出額(2015年、日本銀行福岡支店試算)をみると、アジア向けが全体の57.5%を占めており、ダントツだ。それに対し、米国は11.3%に過ぎず、九州経済に対する米国の影響はかなり限られているように見える。

しかし、たとえば九州で生産された部品等が、日本国内の他の地域の製品に用いられて、それが米国に輸出される場合や、もしくは、九州からアジア諸国に輸出された部品が、それぞれの国で製品となって、米国に輸出されるということもあるだろう。そうした点を踏まえ、日本銀行福岡支店は、海外諸国の経済変動(鉱工業生産で測定)が、5年間の九州での生産にどの程度の影響を及ぼすかを、試算している(金融経済トピックス「九州の製造業における海外各地域への依存度について」2016年4月14日)。それによれば、九州の生産への影響度合いは、米国が全体の19.4%、アジアが15.9%となり、米国経済の動向が及ぼす影響は大きい。したがって、これからも長期的に米国経済の拡大が期待されることは、九州経済にプラスに働こう。

また、米国よりウエイトが低いとはいえ、中国を含むアジア経済の動向は、九州経済にとって重要だ。アジア向け輸出だけではなく、どの程度中国等アジア諸国からの旅行客を取り込むか、という側面でも注目される。外国人の港別入国者数(観光客以外も含む)では、福岡空港は、成田、関西、羽田に続いて4位だ(2015年、法務省)。また、クルーズ船の港湾別寄港数でも、博多港が全国トップで、長崎港が2位となっている(2015年、国土交通省)。すでに九州は海外観光客の玄関口だ。

加えて、中国などから日本への観光旅行のリピーターが増えるにつれて、お決まりの東京、京都、大阪といった諸都市の観光から、九州を含む他地域への旅行の広がりが期待されるだろう。

こうした点も踏まえると、中国経済の堅調な推移が、九州経済を支える展開が予想される。

主な学歴:

1981年    東京大学理学部数学科卒業

1988年    米国マサチューセッツ工科大学経営科学大学院

(MIT Sloan School of Management)修士課程修了

主な職歴:

1981年に(旧)日興証券入社。ほとんどの期間、日興グループ各社の調査関連諸部門を歴任。

2009年1月より、独立して経済・市場分析業務を営む。

種々の活動:

日本経済新聞夕刊のコラム「十字路」の執筆陣のひとりで、テレビ・ラジオ出演や、雑誌・電子ニュースへの寄稿も数多い。講演活動も活発に行なっている。

最近のマスコミへの登場例(順不同、一部のみ):
ストックボイス、日経CNBC、BSジャパン、ラジオNIKKEI、日本経済新聞、エコノミスト、プレジデント、東洋経済オンライン、QUICK、時事通信、ロイター。

書籍執筆は、「時事問題とマーケットの深い関係」(2015年、金融財政事情研究会)、「勝率9割の投資セオリーは存在するか」(2016年、東洋経済新報社)、「投資の鉄人」(共著)(2017年、日本経済新聞出版社)など。